少子化や生成AIが迫る、教育ビジネスはオワコンか? -不確実な時代に必要とされる「知のプラットフォーム」の構築へ-
少子化による高等教育の危機と「私大250校縮減案」
2026年4月、財務省の財政制度等審議会は、少子化による18歳人口の激減を背景に、2040年までに現在624校ある私立大学を217~372校規模へと最大約4割削減する「私大250校縮減案」を提言しました。この提言から軽率に行動してしまうと、地方の教育機会や地方経済に多大な影響を及ぼします。単純に数だけで「教育」を消失させるのではなく、少子化の中でしっかりとエコシステムが形成できる教育のシステムはどのようなものか考えてみたいと思います。
知識伝達型教育の限界と学習塾業界の淘汰
高等教育の「入口」である学習塾・予備校業界でも、2025年に過去最多の倒産件数を記録するなど淘汰が加速しています。少子化や講師不足といったマクロ要因以上に業界を揺るがしているのが、生成AIの普及による「知識伝達型教育の価値減少」です。
これまで「正解を効率よく導く技術」を商品としてきた従来の教育ビジネスは、誰でも生成AIからそれらを一瞬で得られるようになり、その存在意義を根本から問い直されています。
将棋の藤井聡太さんは、将棋ソフトを活用されましたが、「答えを教えてくれるツール」ではなく、「能力を伸ばす共創パートナー」として使いこなしました。教育ビジネスにおいても「答えを教えてもらうツール」ではなく「思考のプラットフォーム」をどう構築するかが鍵となります。
生成AI時代に求められる能力
1.問いを立てる力
生成AIに様々な回答を出させるためには、「何が問題か」「何を解決すべきか」というスタートラインの「問い」そのものは自らつくり出す必要があり、その力が重要となります。教育は「答え方を教える」から、どのように思考すれば「問い」が立てられるかを「コーチングする」ことへ転換しなくてはなりません。
2.情報を取捨選択する力
「データ」→「情報」→「知識」→「知恵」と昇華される過程の中で、様々な角度からそれらを捉え、状況に応じて取捨選択、解釈していく力が必要となります。同じリンゴを見ても、「鮮度が落ちている」と捉えるか「まだ美味しく食べられる」と捉えるかで、その後の解釈や行動が全く異なります。双方を把握した上で、状況に応じて取捨選択、判断する力を身に付けることが重要です。
集団教育からの脱却
対人コーチング
一律のカリキュラムではなく、個々人の興味関心を引き出し、各々の個性に合った人生を切り拓くために必要な力を身に付けるためには、よき理解者によるコーチングが必要になります。しかし、『先生と生徒』の1対1ではなく、複数の他者と対話し学び合う(ピア・ツー・ピアの)環境により、下記の効果も合わせて発揮できます。
他者理解とコミュニケーション能力
多様な立場・価値観を持つ他者と対話し、自分の意見と対比しながら良いものを取り入れていくことで、自己の昇華にもつながります。またしっかりとコミュニケーションすることで、お互いの理解も深まり、集団としての力も強まります。
生涯学習と「アンラーン」の重要性
ここで言う「生涯学習」は、定年後にセミナーを受講することではなく、高等教育卒業後も常に学び続けることです。科学技術、世界や経済の情勢、詐欺の手口など、目まぐるしく変わっていきます。過去の成功体験や古い知識は「アンラーン(学びほぐし)」し、溢れるほどある新しい情報を解釈し他者と意見交換し、しっかりと自らの生きる力としてアップデートしていくことが重要です。
高等教育の進化
高等教育は、「正解を効率よく導く技術」を得ることや、大学合格や学歴を得る手段ではなくなります。その人の個性にあった生きかたをする為に必要な能力を、一生アップデートしつづける手段に変わっていく必要があります。時間とコマ数のカリキュラムを売るビジネスから、思考を巡らすためのコミュニティや問いの場を売るビジネスへの転換が必要です。「サロン」「対人コーチング」「グループワーク」など、その場づくりによってインフラを形成することで、誰かに教えてもらうのでなく、お互いに学び合うプラットフォームとして、存在価値を作り出すことができます。
これらは個人の能力開発に留まらず、企業や組織にとっても「アンラーン」して戦略の再構築につなげることができます。
少子化だから大学の数を減らすという軽率な対応ではなく、「高等教育」を再定義して、不確実な時代に必要な「知のプラットフォーム」を構築することで、新たなエコシステムの構築につながると、私は考えています。
【参考】
・人口減少社会の中での総合的な国力の強化(財政各論Ⅰ)(財務省)
https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia20260423/01.pdf