スペースポート(宇宙港)で、過疎の町が宇宙産業の拠点へと進化
ロケットの打ち上げには、地球の自転エネルギーを最大限に利用し、万一のトラブル時における落下物の被害を避けるため、「東側から南側にかけて広大な海に開けており、周辺に密集した居住地域がないこと」が絶対条件となります。
実は世界を見渡しても、国土の東と南が広大な海洋に面し、かつ国内に安定した産業基盤を有する国はそんなに多くありません。たとえば欧州諸国は自国内に適地がなく、南米のフランス領ギアナまでロケットを運び打ち上げています。これに対し日本列島は、国土そのものが世界屈指の地理的ポテンシャルを秘めています。かつて「陸の孤島」や「過疎の最果て」と呼ばれてきた沿岸部の港町こそが、宇宙時代においては「唯一無二の超一等地」へと反転するのです。これは既存の企業にとって、商圏を宇宙産業という成長市場へ広げる、巨大なビジネスチャンスの幕開けを意味しているのです。
スペースポート構想に着手している主な自治体
現在、日本各地でその地理的優位性や既存インフラを活かしたスペースポート(宇宙港)の整備・誘致が進められています。
北海道 大樹町(北海道スペースポート:HOSPO)
アジア初の「民間にひらかれた宇宙港」として先行。垂直打ち上げ射場に加え、滑走路も備えた総合複合宇宙港を目指しています。
和歌山県 串本町(スペースポート紀伊)
本州最南端に位置し、民間企業(スペースワン)が主導する小型ロケット(固体燃料)専用の垂直打ち上げ型射場です。見学場の整備や「ロケットの町」としてのブランディングなど、自治体と一体となった観光振興を推進しています。
大分県 国東市(大分空港)
既存の3000m滑走路を活用し、航空機の翼の下からロケットを空中発射する「水平型」の宇宙港を目指しています。既存の空港ターミナルや整備機能をそのまま活用できる点が特徴です。
沖縄県 宮古島市(下地島空港)
下地島空港の3000m滑走路と良好な気候条件を活かし、将来の宇宙旅行を見据えたスペースプレーン(宇宙往還機)の離着陸拠点化に向けた実証実験や検討が進んでいます。
その他検討自治体
南東に太平洋が広がる高知県(黒潮町・土佐清水市など)や、実証フィールドが集積する福島県(浜通り沿岸部)、首都圏近郊の静岡県(伊豆半島南部)、既存の国家射場を抱える鹿児島県(肝付町・南種子町)などでも、独自の強みを活かした宇宙港の可能性が模索されています。
先行する北海道大樹町(HOSPO)が示すモデルケース
日本の民間宇宙港構想の中で圧倒的に先行しているのが北海道大樹町です。大樹町が他地域の一歩先を行く背景には、明確な強みと戦略があります。
第一に、約40年にわたる「宇宙のまちづくり」の歴史です。一過性のブームではなく、長年にわたりJAXAや大学、民間企業の航空宇宙実験を受け入れ続けてきたことで、地元住民や漁業関係者の深い理解と強固な協力体制がすでに築かれています。
第二に、運営ノウハウの民間移転です。宇宙港の事業会社である「SPACE COTAN」の代表にはANA(全日空)出身者が就任しています。航空会社が長年培ってきた空港運営のオペレーション、厳格な安全管理体制、航空会社や行政との折衝力、そしてマーケティングのノウハウをそのまま宇宙港ビジネスへと転用・展開している点は、大きな強みとなっています。
第三に、自治体と一体となった産業集積です。大樹町は単に発射台を貸し出すだけでなく、ロケット開発企業(インターステラテクノロジズ≒いわゆるホリエモンロケット等)や衛星関連企業の誘致、エンジニアの移住・定住促進、滑走路延伸や新射場(LC-1、LC-2)の建設など、包括的な産業クラスターづくりを自治体と事業会社が二人三脚で推進しています。
「打上げ時」と「平常時」を両立させる『二毛作型』のまちづくり
スペースポートを核とした地域再生を成功させるためには、年に数回の「打ち上げ時」と、日々の日常生活を営む「平常時」を両立させるまちづくりや経済設計が必要となります。
施設のハイブリッド運用:
打ち上げにあたっては、数か月前から多くスタッフが滞在して準備に当たります。そして当日には多くの観覧客が押し寄せます。時には天候等でスケジュールが延期されることもあるため、相応の宿泊施設が必要になります。「平常時」でもロケットや衛星の製造企業や研究機関等に実験や各種試験で活用してもらえるよう、施設・設備を構築することが必要です。「平常時」の活用が増えれば新たなビジネスの展開が考えられます。
地元住民のマルチワーカー(複業)化:
打ち上げ時には宿泊・飲食施設や、警備、会場案内など膨大な人手が必要となります。これを地元や周囲の住民の方で支えることで、それまで大きな産業がなかった地域にも「産業」が生まれます。それを支えるサプライチェーンも必要ですが、難しいのは一時期に集中することです。柔軟なエコシステムを構築することで、新たな経済循環が生まれます。
宇宙産業クラスターの形成:
打上げ時のみならず、実験や各種試験での対応など、現地での調整・加工のニーズが発生します。宇宙用部品には極めて高度な品質管理と精度が求められますが、地元の様々な町工場などが、必要な設備導入と技術力や品質管理を高めることで、新たな産業へ進化できます。またこの地に移転してくる企業も出てくることでしょう。スペースポートの周囲には宇宙産業クラスタが形成が期待できます。
交通インフラの強化と地方創生の展望:
ロケット打ち上げ時には、安全確保のため上空には厳格な飛行制限区域が設定され、周辺海域も海上保安庁等による航行警報のもとで船舶の立ち入りが厳しく規制されます。また、打上げ当日の人の移動だけでなく、平常時の実験や試験等も含めて、様々な部品やモノの輸送も必要となります。従って、陸上の交通インフラをどう強靭化するかが成否を分けます。この過程で整備された交通網や移動インフラは、日頃から移動の足に悩む過疎地域の住民にとって、通院や買い物を支える持続可能な生活インフラとして長く地域に還元されます。
世界屈指の地理的優位性を誇る日本の沿岸部において、スペースポート構想は単なるロケット発射場の建設にとどまりません。技術者の定住、地元産業の高度化、そして公共交通機関の再編を同時に促すことで、過疎の町を「地球の最果て」から「宇宙産業の拠点」へと塗り替える、極めて現実的で力強い地方活性化の起爆剤となるのです。
このチャンスにあなたのビジネスやアイデアがどう関われるのか、一度考えてみませんか。
【参考】
北海道SpacePort「HOSPO」
https://hokkaidospaceport.com/